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「一元管理」どう実現?デジタルアセット管理(DAM)とは?

医師の情報ニーズに応えるための製薬企業のコンテンツについて、これまで5回にわたって弊社の考え方・アプローチをご紹介してきました。そもそも大前提として、医薬品のプロモーション用コンテンツとして、社内で審査された最新版が活用される必要があります。しかしながら、審査済みのファイルと制作会社から納品された最終成果物との紐づけが管理されていないと、誤って承認されていない内容もの(旧バージョンなど)がiPad上やウェブサイト上に残って、そのまま使われてしまうリスクがあります。また、使用期限や使用対象が権利で制限されている素材が、許諾の範囲外で使われてしまうということもあり得ます。そのような事態が発覚した場合、コンプライアンス違反として、当局から厳しい指導や罰則を受けることになるので、組織として管理をする仕組みを構築しておくことは製薬会社としての義務と言えるでしょう。

大半のコンテンツは、一度制作されたあと、最新の情報に合わせて内容が改定されたり、同様のコンテンツを制作するために再利用されたりします。ところが、最新版のファイルがどこにあるのかが特定できないと、制作者を探し回らなければなりません。もし、編集可能な最新版のファイルが見つからなければ、もう一度ほぼ同じものを最初から作らなければならないため、労力とコストにおいて多大な無駄が発生します。実際、そのような事例が起きていて困っているというお声をしばしば耳にします。

弊社としては、上記の課題に対応するために、デジタルアセット管理(Digital Asset Management, 以下DAM)が重要であると考えています。我々はDAMには2つのレベルがあると考えています。

  1. 最終成果物の一元管理:審査済みの最新バージョン、制作会社から納品されたソースファイルを一元管理する
  2. 構成要素の管理:将来的に更新、廃止などの対応が必要になる構成要素(画像、文献からの引用など)と成果物との紐づけを管理する

日本においては、制作会社にコンテンツの管理を委ねる傾向があり、海外と比べると上記のようなDAMの導入は進んでいないという印象です。今回は、それぞれのDAMのアプローチについて、考え方をご紹介します。

1. 最終成果物の一元管理

制作するコンテンツの種類(チャネルなど)や、制作者ごとに、最終版ファイルの格納場所や管理方法が異なり、バラバラに管理されているという事例をよく聞きます。また、組織としてSOP(作業手順書)などで管理方法を決めていたとしても、実際は徹底されておらず、属人的な方法で管理されていることもあります。結果、ファイルの紛失や、誤ったファイルの使用などのリスクを常に抱えることになります。さらに、制作されたコンテンツと審査システムのファイルとの連携が管理されていないことも多いため、再審査になった場合、どのコンテンツを更新すればよいのかが特定できない事態に陥ります。

そのような状況を回避するためには、DAMの仕組みを用いて、すべてのファイルを一カ所で管理することが望ましいと弊社では考えています。例えば、Veeva Vault PromoMatsの場合、多くのお客様にコンテンツの審査プロセス管理ツールとしてご活用いただいていますが、DAMのツールとしてもそのままご活用いただけるようになっています。審査が完了したあと、そこから制作者に最終成果物を指定のフォーマットで格納するように依頼をすれば、結果的にすべての最終成果物が審査済みファイルと紐づけられた形でPromoMats内に格納することができます(図1)。

図1:最終成果物の一元管理のイメージ
fig1

このような管理をしておけば、最新版の審査済みファイル、納品された最終成果物を一カ所で効率的に把握することができます。コンテンツが再審査になった場合でも、改訂や廃止が必要な制作コンテンツのソースファイルを素早く特定することができますし、最終成果物から、その根拠となった審査済みのファイルを効率的に見つけることができます。また、PromoMatsとVeeva CRMをお使いいただいていれば、現場で使用中のコンテンツと審査情報、ソースファイルとの紐づけも明確になります。

2. 構成要素の管理

コンテンツ内の構成要素の中には、使用期限や対象が制限されている画像や文献引用が多く含まれます。多くの場合、制作時には制作会社を通じて許諾の手続きが取られているものの、その後、管理が徹底されていないこともあるかと思います。もしも違反が発覚した場合は、出版社等からペナルティを課されたり、会社としての信用を損なったりすることになります。そのような事態を防ぐには、管理が必要な構成要素について、審査ファイル内の使用箇所がすぐに特定できるように紐づけしておくというアプローチがおすすめです。

Veeva Vault PromoMatsにおける具体的なステップとしては、まず許諾が必要な構成要素(画像など)をコンポーネントとして登録します。その際、どのような条件で使用が許諾されているのかを規定した根拠資料を添付するとともに、使用期限や使用対象をコンポーネントの属性情報(メタデータ)としてシステム内に記録することができます(図2)。その要素を制作するコンテンツに含める場合には、該当箇所とコンポーネントを紐づけ(アンカーリング)しておけば、後からそのコンポーネントが使われているコンテンツを容易に特定することができます。また、コンポーネントの期限が切れる前に、期限切れのリマインドがされるので、許諾の再申請などのアクションをタイムリーにとることができます。

図2:コンポーネントの権利管理のイメージ
fig2

上記のアプローチの応用として、許諾が必要ない構成要素であっても、今後多くの箇所で使われることが想定されていて、かつ更新される可能性が予想される構成要素(例えば、添付文書に関連する箇所など)については、コンポーネントとして登録し、コンテンツの該当箇所と紐づけておくと、後でそれらの箇所を効率的に把握することができます。

また、参照文献を用いた同様のアプローチもあります。Veeva Vault PromoMatsの場合、コンテンツにおける科学的な主張の箇所と、その根拠に該当する参照文献の箇所を紐づけ(アンカーリング)する機能があります。その機能を用いてコンテンツと参照文献の紐づけをしておけば、ある参照文献に関連するコンテンツの改訂が必要になった場合(例えば、引用していた臨床データが更新された場合など)、その文献に関連するコンテンツおよびその場所を容易に検索することができます。

今回ご紹介したDAMのアプローチについては、適切なプロセスを設計し、ワークフローを設定すれば、製薬会社の各部門の担当者、外部の制作会社の双方において、基本的には追加の作業は発生しません。むしろ全体としての業務効率向上に寄与すると考えます。では、DAMを実現するには、何をすればよいのでしょうか?一般的なステップをご紹介します。

DAM実現に向けたステップ

まずは、コンテンツ制作およびレビューのプロセスに沿って、ファイルの管理プロセス・ルールを再定義します。例えば、制作会社に対して、誰がどのステップで成果物の提出を依頼し、どこにそれを格納するのかを規定します。次に、そのプロセスを実現するように、ワークフローの設定変更を行います。最後に、規定されたプロセスを運用していくためのコミュニケーションやトレーニングをコンテンツの管理部門が中心となって実施します。DAMには社内外の多くのステークホルダーが関わるので、コンテンツの管理部門(コマーシャルエクセレンスなど)がリードしつつ、マーケティングや審査担当者など関係者で協議しながらプロセスを合意し、展開していくことが成功の鍵です。

なお、過去のブログでご紹介したように、モジュラーコンテンツを実現するための準備として、コンポーネントやクレーム(科学的主張)をDAMとして管理するというさらに高度なアプローチも存在します。しかしながら、弊社としてはそれらのアプローチに進む前に、最新版の審査済みと最終成果物を連携した形で一元管理を実現することが先決だと考えます。

次回は、モジュラーコンテンツの考え方についてお伝えします。


このページでは、課題解決のヒントとなるトピックを、連載形式でお届けしています。

  1. Overview、個別化するコンテンツニーズにどう対応?
  2. コンテンツマッピング
  3. 制作プロセス改善
  4. レビュープロセス改善
  5. コンテンツ活用推進
  6. デジタルアセット管理(DAM)
  7. モジュラーコンテンツ

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