ICH GCP E6 (R3) から読み解くオーバーサイト その1
2025 年 1 月 6 日、ICH E6 (R3) ファイナルバージョンがパブリッシングされました。本ブログは、ドラフトバージョンを基に欧州拠点の製薬会社 20 社の協力を得た Veeva が提供するホワイトペーパーについて解説します。
設立されたワーキンググループでは、ICH E6 (R3) の複雑さを精査し、新たなガイダンスへのスムーズな移行を確実にするための洞察を得ることを目的に実施されました。日本のお客様には既に実施済みのことも多い内容ですが、リモート査察の増加を背景に、依頼者側のオーバーサイトのあり方について解説していきます。
依頼者側の主要変更点
オーバーサイトやリモート査察の観点から、ICH E6 (R2) から R3 移行での変更点には以下のようなものがあります。
「必須文書 (Essential Document)」と「必須記録 (Essential Record)」:
R3 では「必須文書」の名称が「必須記録」となっており、必須記録には文書だけでなく、メタデータや責任医師とのコミュニケーションログなど試験の実施中にとられた活動のプロセスなど広範囲な情報が要求されています。必須文書から必須記録に拡張されることで、委託先へのオーバーサイトに対し、より包括的なアプローチが必要になります。依頼者は査察期間中、オーバーサイト文書やデータにアクセスできるよう、電子治験マスターファイル(eTMF) や臨床試験管理システム(CTMS)といったシステムも必要になります。
必須記録へのダイレクトアクセス
R3 では透明性の確保や試験全体のほぼリアルタイムのモニタリングやオーバーサイトの実践のため、依頼者と査察官が形式や場所に関係なく、必須文書へのダイレクトアクセスが要求されています。また試験のアウトカムを超え、根拠 (Rationale) や意思決定 (decision making) プロセスの軌跡を捉えることにも重点がおかれます。依頼者は、CRO の意思決定プロセスを明確に把握する必要があります。
クオリティ・バイ・デザイン
従来通り品質マネジメントに対しては、リスクベースで事後的なアプローチから、前方的なクオリティ・バイ・デザインの理念を推進しています。依頼者と CRO との共働により、品質やリスクに対するすり合わせを行うことで手戻りを減らす、軽微な逸脱が大きなイベントになるようなミスコミュニケーションを減らす、といったことを事前回避し、試験のライフサイクル全体を通して潤滑に行うことが必要です。すでに多くの試験で取り組まれているようなジョイントセッションにも、試験設計時に品質やリスク管理の整合性を取ることや、試験全体を通して継続的なコミュニケーション計画の策定も大切になります。
オーバーサイトへの障壁
依頼者はこれまで以上にオーバーサイトに関する責務が求められます。オーバーサイトには、安全で効果的かつ規制に準拠した体制が、依頼者と CRO 間の複雑な協奏のために必要です。一方でプロセスとテクノロジーの観点から、一般的な課題の一部について以下のようなものが挙げられています。
プロセス観点の課題例
一般的に課題やリスク報告開催には月次のレビュー会議が開催されますが、CRO は準備に手作業で時間やリソースを要することがあります。結果として、リアルタイムにデータに基づく意思決定が難しくなる場合があります。またトレンド追跡、即時分析や対応には、レビュー会議で報告される表層的な課題やリスクだけでなく、経緯の追跡が必要ですが、時に経時変化を後追いすることが困難な場合もあり、根本原因の特定やコレクティブアクションをタイムリーに講じることが困難になることがあります。
テクノロジー観点の課題例
eTMF は有用ですが、必ずしもオーバーサイトの万能薬ではありません。eTMF 上の必須文書は査察官が試験のアウトカムや文書を評価するのに役立ちます。しかしR3 は必須文書ではなく「必須記録」を重視しているため、依頼者のオーバーサイトで発した事象、例えばプロトコル逸脱やコレクティブアクションを経時的に追跡する必要があります。一方で、オーバーサイトに必要な文書や記録は、電子メールや共有ドライブ、Word 文書、SharePoint、その他のシステムなどさまざまなテクノロジーに広く分散されていることがあり、唯一の信頼できる情報源が依頼者にあることが、オーバーサイトを簡便にする秘訣のひとつとなります。また記録された必須文書と関連メタデータの把握、試験クローズアウト時の記録の格納手段が古典的な DVD や共有ドライブで行われてしまうと、前述必須文書やメタデータの見読性や真正性を保った保管の欠如となりえます。
ダイレクトアクセスへの体制
本邦では、今後リモート査察の位置づけはどうなるのか今後に期待するところですが、R3 では審査官が要求するすべての試験関連記録に、ダイレクトアクセスできることを要件付けられています。依頼者は、オーバーサイト向けのシステムを査察のために利用できるようにする必要があることが規定されています。読み取り専用およびスタディ文書だけでは不十分です。これはまた、査察のために直接アクセスできないため、記録を保存するための「紙」のレガシー システムの維持が困難になることを意味します。
本篇では、まず ICH E6 (R3) に対する依頼者が直面する主要な課題を、欧州の製薬会社 20 社のワーキンググループで掲げられた内容として共有しました。次回は本課題に対する具体的な施策を取り上げます。
ホワイトペーパー「ICH GCP E6 (R3) Implications on Fully Outsourced Sponsors and Studies」をご覧ください。
Veeva のクリニカルソリューションは、国内外の製薬企業様で広く活用されています。効果的なオーバーサイトのためのデジタル化や最適化についてお悩みの方は Veeva までお気軽にご相談ください。