欧米で導入進む「モジュラーコンテンツ」、日本における課題とは?
欧米の製薬企業を中心に導入が進む「モジュラーコンテンツ」をご存じでしょうか?
事前に設定したモジュール(コンテンツブロック)を組み合わせて、多くのバリエーションのコンテンツを効率的に制作するアプローチで(図1)、コンテンツ間の一貫性の担保と、共通部分の制作・レビューの効率化が期待されています。
図1:モジュラーコンテンツの概要

日本においても、モジュラーコンテンツのアプローチを試験的に導入している企業がいくつか出てきました。ただし、その過程で見えてきた課題が多くあり、モジュラーコンテンツ導入のメリットを享受するまでの道のりは簡単ではなさそうです。今回は、日本において、モジュラーコンテンツをどのように捉えるべきか考えていきたいと思います。
モジュラーコンテンツを導入するメリットとしては、レビュー・制作期間の短縮、コンテンツ制作コストの削減がよく挙げられます。ただし、そのメリットを実現するには「医師の個別化されたニーズに応えるべく、今後ますます多様なコンテンツを制作する必要がある」という前提があります。
モジュラーコンテンツのアプローチを行うためには、モジュールを作成し、レビューし、再利用できるように管理するプロセスが必要となります。当然、そのための工数がかかります。よって、多くのバリエーションのコンテンツを制作しないならば(使い切りのコンテンツを制作する場合など)、モジュラーコンテンツによって得られるメリットは全くありません。また、すでにコンテンツが多く作られている場合、それらをパーツ(コンポーネントと呼ばれる画像やテキストアセットと呼ばれる文字情報など)に分解し、管理するには多大な労力がかかります。したがって、モジュラーコンテンツで十分なメリットが得られる製品およびコンテンツの戦略があるかを、明確にすることが先決です。例えば、欧米の例を見ると、成熟した製品よりも新規のデータが今後多く出てくることが予定されているような上市後間もない製品において、モジュラーコンテンツが適用されているケースが多いようです。
また、試験的な導入事例から、モジュラーコンテンツを展開していくうえでの課題がいくつか見えてきています。
1つめは、日本のデータの固有性です。欧米では、グローバルコンテンツを各国に展開する際に共通のモジュールを使うことができますが、日本では臨床試験のデータも適応も独自であることが大半なので、グローバルのモジュールは基本的には使えません。さらに、各国のコンテンツを見比べると、コンテンツの作り方として、日本では欧米と比べてより細かい事実の記載が求められる傾向が強いように見受けられます。その結果、グローバルのモジュールを再利用できるポテンシャルが制限されているといえます。
2つめは、チャネル横断での再利用の難しさです。特定のチャネル向けに作成されたモジュールを他チャネルに展開しようとしても、解像度や縦横の比が合わなければ、そのまま活用することはできません。この課題はグローバル共通の課題といえます。また、ソースファイルがあったとしても、特別なフォントを使っている場合など、再利用できないケースもあります。
加えて、著作権に関する対応もハードルとなる可能性があります。出版社が権利を保有するデータについては、使用する媒体や想定している配布数、期間に基づき、著作権料を支払う必要があります。よって、将来どのような形で再利用する予定が立てられていれば、まとめて手続きを済ませておけるのですが、そうでない場合は将来モジュールを使って新たな資材を制作する際にはあらためて追加の著作権料を支払う煩雑な手続きが必要となります。
一方で、グローバル企業において、他市場での経験に基づき日本へのモジュラーコンテンツのアプローチの導入が、グローバルもしくはリージョンから強く要請・打診されている場合もあるかと思います。他市場での成功事例をそのまま日本に当てはめようとする前に、まずは個別化されたコンテンツを制作するニーズが日本に存在するかどうかを再確認し、様々なバージョンのコンテンツをパッケージとして制作するプランを立案することが重要です。もしそのプランを立てられないのであれば、モジュラーコンテンツ導入のプロジェクトの対象市場から離脱するという選択肢も検討すべきです。
では、日本においてモジュラーコンテンツのアプローチの活用は無理なのでしょうか?そう決めつけるのは早計だと思われます。AIなどのテクノロジーは日々進化しており、モジュラーコンテンツのアプローチを効率的に実現できるようになる可能性も十分にあると見ています。たとえば、再利用が見込まれる共通部分を定義しておけば、多くのコンテンツの中からAIが該当部分を判別したり、その学習内容から既存パーツを組み合わせたコンテンツのドラフトを生成したりすることが容易にできるようになる可能性があります。そのような未来に備えるためにも、まずはコンセプトを試すためのパイロットとして、小さくスタートすることをお勧めします。特定の製品やキャンペーンにおいて、個別化されたコンテンツのバリエーションを制作し、活用する経験を積むことによって、スケールアップする価値があるかを評価することが可能です。
同時に、そのような将来の可能性に備えるためにも、前回のデジタルアセット管理(DAM)に関するブログでお伝えしたように、コンテンツの最終成果物を最新版の審査済みファイルと連携した形で再利用可能な状態にしておくこと、AIが学習することが想定されるような鍵となる情報をメタデータとしてコンテンツに付与しておくことが改めて重要だと考えます。
これまで6回にわたってコンテンツ制作および活用のアプローチについて、弊社の考えをご紹介してきました。医師の情報ニーズの変化、およびテクノロジーの進化により、コンテンツの制作・活用プロセスは今後ますます変わっていくことが予想されます。Veevaグローバル全体で最新の知見を集積しておりますので、コンテンツ制作・活用アプローチについて、知りたいこと、検討されたいことなどございましたら、いつでも気軽にVeevaのビジネスコンサルティングチームにお声掛けいただければ幸いです。
このページでは、課題解決のヒントとなるトピックを、連載形式でお届けしています。